名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)1981号 判決 1984年5月15日
原告
村瀬伍兵衛
右訴訟代理人
中村誠治
被告
永藤悦蔵
右訴訟代理人
鬼頭忠明
主文
一 別紙目録記載の土地につき原告の昭和四九年一月一日ないし昭和五一年六月三〇日の期間について賃料の確認を求める訴を却下する。
二 原被告間において、別紙目録記載の土地の賃料は、昭和五一年七月一日以降昭和五六年七月三〇日までは一箇月当り五万三二〇〇円、
昭和五六年八月一日以降は一箇月九万二四〇〇円、
であることをそれぞれ確認する。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実《省略》
理由
一前提事実
当事者間に争いのない事実に弁論の全趣旨等を総合すれば、以下の事実は明らかである。
1 第二次大戦以前(少なくとも昭和初期以前)から原告先代はその所有にかかる本件土地を被告先代に対し、期間を定めず、賃料は当月分末日払の約定で賃貸していたが、現在では原被告がそれぞれ相続し、原告が賃貸人、被告が賃借人の地位にある。
2 現在被告は本件土地の東側部分に住居を有してこれに居住しており、建物のない西側部分を車置き場等として利用している。
3 本件土地の賃料は昭和四五年四月一日当時一箇月当り一万二〇〇〇円であつた。
4 原告は右の賃料(以下便宜上「旧賃料」ということがある。)が不相当になつたとして、昭和四八年一二月一三日到達の内容証明郵便をもつてこれを昭和四九年一月一日以降坪単価五〇〇円に増額する旨の意思表示をした。
5 更に原告は右割合による賃料もその後不相当になつたとして、昭和五六年七月一四日提起の本訴の訴状をもつて本件土地賃料の坪単価を同年八月一日以降一二〇〇円に増額する旨の意思表示をなし、右訴状は同年七月三一日に被告に送達された。
6 原告は同じく本件訴状をもつて、本件土地西側部分の賃貸借の解約申入をした。
二賃料の確認の利益について
1 原告が最初に本件土地の賃料増額の意思表示をしたのは昭和四八年一二月一三日である(前項4)であるが、月単位の賃料債権は五年間行使しないことによつて時効消滅するから、被告の右時効援用によつて本訴提起(昭和五六年七月一四日。前項5)に五年以上隔たる賃料債権差額分は消滅したことになる。従つて原告はこれをもはや請求し得ないのであるから、その金額を確定する利益がなく、即ちこの部分は訴の利益を欠いて却下を免れないこととなる。本訴提起に五年以上隔たる部分とは、昭和四九年一月分ないし昭和五一年六月分である。なお昭和五一年七月分は同月末日に履行期が到来する(前項1)から、昭和五六年七月一四日の本訴提起によつて時効は中断した。
2 原告主張の、賃料額が判決によつて確定されるまで消滅時効は進行しないとの立論は、一旦賃貸人が増額請求をすればその後どれ程放置しても訴提起に至るまで時効期間は進行しないという結果を招くに等しく、採用できない。原告は、原告申立の賃料増額調停中に被告が多少の増額には応じる旨の債務の承認をしたから時効は中断したとも主張するが、右調停は原告の主張によれば不調に終わつたというのであるから、民事調停法第一九条の趣旨に則り、その後に訴の提起がなかつた本件にあつてはこれに時効中断の効果を認めることはできない。
三賃料増額請求について
1 本件土地の昭和五一年七月分以降(前項参照)及び昭和五六年八月分以降の相当賃料は、<証拠>を総合して、それぞれ少なくとも五万三二〇〇円(坪単価二五四円)、九万二四〇〇円(坪単価四四二円)であると認定する。即ち原告の二度にわたる賃料増額の意思表示はそれぞれ右の限度で効力を生じたものである。
2 弁論の全趣旨によれば、被告が原告の今回の賃料増額を特に強く争う所以のものは、増額後の新賃料が旧賃料(一箇月一万二〇〇〇円)と比較して増額幅が過大であるということにあるものと思われるが、これは成立にいずれも争いのない甲第九号証と乙第一〇号証の比較によつてうかがわれる通り、旧賃料が低きに失した結果というべきものである。また鑑定の結果及び前記乙第一号証による賃料算定の方法は、被告主張の所謂スライド方式ではないものの、それぞれ本件土地の状況に応じたそれなりの十分な合理性を有していることは明らかであり、スライド方式でなければならないということはない。
更に<証拠>によれば、民間の賃貸借として現在名古屋市瑞穂区内で坪単価二五〇円ないし三〇〇円で賃貸されている事例(但し土地状況の詳細は明らかでない)のあることが認められるが、他方前記乙第一号証によれば、本訴で認定した前記賃料を上回る事例もあることが認められるのであつて、約六九〇平方メートルのまとまつた面積を有し、角地の便宜を得ている(前記乙第一号証)本件土地の賃料としては、現在の如き利用状況においても前示の賃料は相当なものと言つて差し支えないものと考える。
四西側部分の明渡請求について
原告の右請求は、本件土地は賃貸当初(その時期は明らかでないが、前記の通り少なくとも昭和初期以前である。)から東側部分と西側部分が原告主張の通りに区分されていて、賃貸借の目的も区別されていたということを前提にしているものであるが、右事実を認めるに足りる証拠はない。この点について証人村瀬田鶴及び原告本人が供述するところはいずれも伝聞(ないし再伝聞)の域を出ず、事実認定の資料としては採用できない。却つて<証拠>によれば、少なくとも原被告の代となつてからは本件土地は一体のものとして賃貸借の目的物とされ、本件土地全体に対応する賃料が授受されてきたことが認められるから、本件土地の一部である西側部分についてのみ解約の申入をし、これによつて賃貸借が一部終了したとする原告の主張は失当である。
五以上の事実及び判断によれば、原告の本訴請求は主文第二項掲記の限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は訴の利益を欠き、又は理由がないからこれらをそれぞれ却下(主文第一項)、棄却(同第三項)し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文の通り判決した次第である。
(西野喜一)
目録<省略>